高調波とは?発生する原因と機器への影響・対策の仕組みをわかりやすく解説

電気設備の現場や産業機器の運用に関わっていると、高調波という言葉を耳にする機会があるのではないでしょうか。普段の生活ではなじみが薄い言葉ですが、機器の安定稼働や設備の長寿命化を考えるうえで重要なキーワードのひとつです。
この記事では、高調波の基本的な意味や仕組み、混同されがちな「高周波」との違い、そしてインバータなどのスイッチング方式電源から発生する原因と対策について、基礎からわかりやすく解説します。
高調波の基礎知識:高周波との違い
高調波という言葉は電気の専門分野でよく使われますが、似た用語と混同されやすい概念でもあります。まずは、その定義と基本となる「Hz(ヘルツ)」の意味から整理していきましょう。
高調波(電源高調波電流)とは何か?
高調波(正しくは電源高調波電流)とは、電気の基本となる波(基本波)に対し、その整数倍の周波数を持つ波のことです。本来であれば、交流回路に流れる電流は滑らかで周期的に変化する「きれいな正弦波」となるはずです。しかし実際の電気設備では、電流の波形が歪んでしまう現象が起きます。この「歪んだ電流の波形」の中に含まれている、基本波の整数倍の周波数成分のことを高調波電流と呼びます。
周波数(Hz)の基本:50Hz/60Hzの意味
私たちが日常的に使っているコンセントの電気(商用電源)は交流であり、常に電気の流れる向きが変わっています。これが基本波にあたります。日本には2つの周波数があり、東日本は50Hz(1秒間に50回、電気の向きが切り替わる)、西日本は60Hz(1秒間に60回切り替わる)です。たとえば、50Hzの電源周波数に対してその3倍の150Hzの波は「第3次高調波」、5倍の250Hzの波は「第5次高調波」と呼ばれ、これらが基本波に混ざることで全体の波形が歪んでしまいます。
間違いやすい「高周波」との違い
高調波と混同されがちな言葉に「高周波」があります。
- 高周波:単純に周波数が高い信号や電波全般を指す言葉で、明確な数値の定義はありません。空間を伝わる無線通信や、放射ノイズなどがこれに該当します
- 高調波:必ず「基本波の整数倍」という数学的な関係を持つ周波数成分に限定され、主に電源網(電線)を伝わる電流歪み成分を指します
電気設備の現場では混同されやすいため、それぞれの意味を区別して理解することが大切になります。
高調波がなぜ発生するのか
高調波が問題視される背景には、現代の電気機器が抱える構造的な事情があります。発生の仕組みと、その原因となる電源の動作を見ていきましょう。
発生の原因:平滑コンデンサが電流を「パルス状」に吸い込むため
身近にある電気機器の多くには「スイッチング方式の電源」が採用されています。これらの機器は、交流電源を整流器と平滑コンデンサで一度直流に変換する「コンデンサインプット型整流回路」を内蔵しています。
高調波が発生する本質的な原因は、この平滑コンデンサが交流電圧のピーク付近でのみ、瞬間的に大きな電流を「パルス状」に吸い込む動作にあります。
「半導体素子」が高調波の原因と言われることもありますが、半導体素子はあくまで超高速でオンオフを繰り返すための「スイッチの道具」に過ぎません。実際に波形を歪ませているのは、コンデンサが特定のタイミングだけで一激しく電流を吸い込む現象です。この非連続で急峻な電流の吸い込みが、綺麗な正弦波の波形を大きく歪ませ、電源周波数の整数倍である高調波電流を生み出してしまいます。
そのため、電流が滑らかに流れるようにコントロールし、この吸い込みによる歪みを抑えるために、整流器と平滑コンデンサの前段にPFC回路(力率改善回路)を追加する対策が必要になります。
インバータと高調波の関係
高調波の代表的な発生源として知られているのが「インバータ」です。インバータは電源から取り込んだ交流をいったん直流に変換し、必要な周波数で再び交流に作り直す装置で、モーターの回転数制御や省エネ運転に欠かせません。インバータの入口にある整流・平滑回路は平滑コンデンサを使用しているので、PFC回路が無いと高調波電流歪が発生し、電源ラインを汚染していきます。産業機械や無停電電源装置(UPS)、LED照明、パソコンなどの電子機器も同様の仕組みで高調波を生む原因となっています。
高調波が引き起こす問題と電気設備への影響
高調波は目に見えない現象ですが、放置すれば設備や系統にさまざまな悪影響をもたらします。
無駄な電力を消費する(力率の低下)
高調波電流が発生すると、電気機器の「力率(りきりつ)」が大幅に低下します。力率とは、供給された電力(皮相電力)のうち、どれだけの割合が機器を動かすために「有効に働いたか」を示す指標です。力率は理想である「1.0」に近いほど効率が良い状態とされます。高調波の対策が何も施されていない回路(ダイオード整流+平滑コンデンサ)では、電流波形が大きく鋭く歪んでしまうため、有効電力が低くなり、力率は0.5程度まで落ち込んでしまいます。そうすると電流が2倍流れる為、それだけ無駄な電力(無効電力)を多く消費していることになり、結果として電気設備の強化が必要となり経営・コスト面での大きなデメリットに直結します。こうした事情から、IEC61000-3-2規格では、電源高調波電流の制限について規定されております。
電気機器や設備への影響
高調波電流が流れ込むと、同じ電源網に繋がれている他の機器にも過熱などのトラブルが生じます。特に影響を受けやすいのが電源用の力率改善用コンデンサ(進相コンデンサ)や変圧器、リアクトルです。コンデンサは周波数が高いほど電流を通しやすくなる物理的性質があるため、高調波が流れ込むと想定以上の発熱を起こし、うなり音の発生や、最悪の場合は焼損・絶縁劣化につながる重大なトラブルを引き起こします。
高調波対策の種類と仕組み
高調波による影響を防ぎ、規格をクリアするためには、回路設計において適切な高調波抑制対策を講じる必要があります。ここでは代表的な2つの対策方式と、それに伴うノイズ問題へのアプローチを解説します。
対策①:入力ラインにコイルを置く「パッシブPFC方式
回路の入力ラインにコイル(リアクトル)を挿入する比較的シンプルな方法です。入力ラインにコイルを設置することで、平滑コンデンサへ流れ込む急峻な電流の変化が緩和され、電流の流れ方が穏やかになります。これにより、対策なしの回路(力率約0.5)に比べて有効電力が大きくなり、力率を0.7程度まで改善させることができます。一部の高調波規制は満足できますが、すべての厳しい規格をクリアするには不十分な場合もあります。
なお、三相入力回路の場合は非常に有効な方法となります。
対策②:力率を大幅に改善する「アクティブPFC方式」
さらなる改善を施すための最新かつ効果的なアプローチが、「アクティブPFC方式」です。回路のブリッジ整流回路と平滑コンデンサの間に、昇圧型のスイッチングコンバータを挿入する構成をとります。入力電流が常に入力電圧の波形に沿うようにスイッチングコンバータを超高速で制御することで、電流波形をきれいな正弦波(入力電圧波形)に限りなく近似させます。これにより高調波電流の発生を根本から防ぎ、力率を0.99程度まで極限に高めることが可能になり、厳しい高調波規制を十分にクリアできます。なお、岡谷電機産業では、このPFCコンバータに使用される高精度な「PFC回路用コイル」や「平滑PFC用コンデンサ(キャパシタ)」をラインナップしています。
パッシブフィルタは構造が比較的シンプルで、特定の次数の高調波に対して高い効果を発揮します。一方で、対象とする周波数が固定されるため、複数の次数に対応するには複数の回路が必要になる場合があります。状況や対策レベルに応じて、複数の手法を組み合わせるのが実務的な進め方です。
【重要】PFCコンバータによって増加する「伝導ノイズ」への対策
PFCコンバータは高調波対策として非常に優秀ですが、採用することで「別のノイズ問題」が発生します。PFCコンバータは内部で数十kHzという超高速なスイッチング動作を行うため、電流グラフを拡大すると、その動作に伴う「三角波脈流」のスイッチング電流が流れてしまいます。これが原因となり、今度はAC電源ラインへ逆流する「伝導ノイズ」のレベルが著しく上昇してしまうのです。
そのため、高調波を抑えた後は、この伝導ノイズへの二次対策が必要不可欠です。具体的には、PFCコンバータの前段(入力側)に、高周波特性に優れた平滑コンデンサやLC型のノーマルフィルタを構成することで、スイッチング電流を平滑化し、入力段へ伝わるノイズを低減させます。その上で、さらに入口へ「電源用ノイズフィルタ」を適切に設置することで、高調波と伝導ノイズの両方を完全にシャットアウトする完璧なクリーン電源環境が実現します。
まとめ
高調波は、スイッチング方式電源の整流回路に使われる平滑コンデンサによって電流波形が歪むことで発生し、力率の低下による設備の過熱を引き起こす厄介な現象です。発生源での対策として、コイルを用いたパッシブPFC方式や、力率を0.99まで高めるアクティブPFC方式が有効ですが、PFCコンバータの高速スイッチングは新たな「伝導ノイズ」を生み出す原因にもなります。高調波を抑制しつつ、発生したノイズは電源用ノイズフィルタやLCフィルタで適切に処理するという対策が重要となります。





